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(1)民泊と民法(概要)

民法は、私人間の取引や家族に関するルールを定めている。民泊は、旅行者に宿泊施設を提供するビジネスであるが、部屋を提供する部分では、賃貸借契約との関係が問題となる。また、借りている部屋を民泊に利用する場面では、転貸借関係が問題となる。また、宿泊者の起こした不法行為との関係では、ホスト所有者の責任が問題となる。

(2)民泊と定期建物賃貸借(借地借家法) 

借地借家法は、不動産について民法の賃貸借規定に関する特別法である。不動産が生活や活動の基盤となることから、主に借主の地位を強化する方向で民法の規定を修正している。 借地借家法には、契約の更新のない「定期建物賃貸借」という賃貸借契約がある(借地借家法同法38条)。定期建物賃貸借契約では期間の制限はなく、1年未満でも締結が可能であることから、短期間の契約を宿泊者と結ぶことにより、旅館業法の許可を回避する方法として利用できないかが問題とされることがある。

しかし、旅館業法の項目で説明したように、「宿泊」か「賃貸」かは、その実体に着目しつつ、①衛生上の維持管理責任が営業者にあるかどうか、② 施設を利用する宿泊者がその宿泊する部屋に生活の本拠を有するかどうかが判断基準とされる。この点、海外からの施設利用者に対して極めて短い期間で宿泊できる施設を提供したとしても、生活の本拠とは到底いえないものでありこの契約は賃貸借契約とは認定されない。
(参考)ウィークリーマンション

旅館業法にいう「人を宿泊させる営業」に該当するか否かは、公衆衛生その他旅館業法の目的に照らし、総合的に判断すべきものとされるところ、(アパート・マンションの一室を1~2週間の短期利用者が大半を占め、客室には日常生活に必要な設備が完備しており、利用期間中における室内の清掃等の維持管理は利用者が行なう)「いわゆるウィークリーマンション」は、旅館業法の適用対象施設に該当するとされている(昭和63年1月29日衛指第23号)。


(3)民泊と転貸借

自分が借りている建物や部屋を第三者に貸すことを転貸という。賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、または賃借物を転貸することができない(民法612条1項)。これを無断譲渡、無断転貸という。そして、賃借人がこれに違反して、無断で賃借権の譲渡または転貸をして、第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、賃貸借契約の解除をすることができる(民法612条2項)。なお、譲渡・転貸は、目的物が引き渡された段階で判断される。賃貸人は、原則として賃貸借契約を解除することができるが、賃借人の当該行為を賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるときには、賃貸人は、契約を解除することができない(判例)。借りている建物や部屋を民泊に利用する場合は、(2)で述べたように、民泊は、「賃貸借」ではないから、転貸には当たらない。

しかし、民泊利用が賃貸借契約の内容に反する場合は、用法違反の債務不履行として損害賠償責任を負うほか、契約解除となる可能性がある(民法415条)。ただし、賃貸借についてはその特殊性から、判例は、以下のような理論で解除権を制限する一方で、解除に催告は不要であるとしている。すなわち、「賃貸借は、当事者相互の信頼関係を基礎とする継続的契約であるから、賃貸借の継続中に、当事者の一方にその義務に違反し、信頼関係を裏切って、賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような不信行為があった場合には、相手方は法定解除で必要とされている催告を要せず、将来に向かって解除することができる。」これは、信頼関係破壊の法理といわれている。なお現時点では、民泊利用と信頼関係破壊の法理に関する司法判断は出ていない。

(4)宿泊者の加害行為に対する責任

民泊では、様々なトラブルの発生が予想される。
・部屋の汚損・破損、夜間の騒音、近隣住民への迷惑行為、不注意による火災、部屋または建物敷地内での傷害事件、自殺等で死者がでる等々

①ホストの責任

所有者とホストが異なる場合、本来であれば、宿泊者の加害行為についてホストが責任を負うことはない。ただし、マッチングサイトを利用する場合、ホストがゲストの加害行為について責任を負うことを利用の契約内容としている場合が多い。例えば、ゲストが起こす夜間の騒音や 近隣トラブル等で第三者に損害を与えた場合は、物件所有者ではなく、ホストが責任を負うような内容の契約となっている。また、第三者が物件や設備を破損させる等の所有者に対する加害行為を行なった場合、ホストは、ゲストの加害行為に対して損害賠償の責任を負う。宿泊施設等の設置、保存の瑕疵(不備)により、ゲストや第三者に損害を与えた場合、原則として賃借人であるホストは、損害賠償責任を負う(土地の工作物責任 民法717条1項本文)。ただし、賃借人が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその責任を負う(同条同項ただし書き)。
 
②物件所有者の責任

物件の所有者は、基本的には、ゲストの加害行為についての責任は負わない。ただし、上記で述べたように賃借人であるホストが、損害発生防止の注意義務を尽くした場合、土地の工作物責任を負う。この責任は無過失でも負う責任である。

※保険 
ゲストの加害行為についての損害賠償責任の負担のリスクは、民泊ビジネスにとっての大きな障害となる。そこで、マッチングサイトでは保険制度を用意しているものがある。例えば、Airbnbでは、ホストが物件所有者の承諾を得てAirbnbで物件の貸し出しを行っている場合は、最高1億円まで補償してもらえる「ホスト保証」制度がある。

※Airbnbのサイトに記載のあるホストの責任
Airbnbのサイトでは、ホストが提供する宿泊施設は、許認可手続等コンプライアンスに則ったものを提供することなど、ホストに対する全般的な規制が掲げられている。しかし、現実は違法民泊の物件の登録も認めており、その運用が問題となっている。

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